多くの美容室では、スタイリストデビューのために数多くの技術カリキュラムをクリアしなければなりません。一般的には、3年後のスタイリストデビューを目標に設定されますが、勤務時間内に十分な練習時間が確保されていないため、多くのアシスタントが勤務時間外に自主練習を行わざるを得ない状況にあります。しかし、これには労働基準法に違反する可能性が高く、後々残業代を請求されるリスクが生じるため、美容室経営者は注意が必要です。

以下に、この問題に関するリスクと法的背景についてまとめます。

  1. 勤務時間外の練習が「労働」とみなされる可能性

美容室では、スタイリストデビューに向けた技術練習が非常に重要ですが、これを自主的な練習として、勤務時間外に行わせることが常態化しているサロンが多く見られます。しかし、労働基準法では、スタッフが労働としての義務を負っている時間は、すべて「労働時間」としてカウントされるべきとされています。以下の場合、勤務時間外の練習も労働時間として認められる可能性があります。

•   店からの指示がある場合

明確に「〇〇までに技術を習得しなさい」「スタイリストデビューに向けて自主的に練習するように」と指示がある場合、これは自主的な練習ではなく、店からの指示による労働とみなされる可能性があります。
• デビュー目標が設定されている場合
例えば「3年以内にスタイリストデビューする」という具体的な目標が設定されている場合、その目標を達成するためには勤務時間外の練習が事実上必要であると見なされ、勤務時間外に行われる練習も労働時間として認定される可能性が高まります。
• サロンが練習場所を提供している場合
勤務時間外にサロン内で練習を行うことが常態化している場合、サロンが練習を事実上推奨しているとみなされる可能性があり、これも労働時間とされることがあります。

  1. 労働基準法違反と残業代請求のリスク

美容師がスタイリストデビューを目指して勤務時間外に自主練習を続けていた場合、労働基準法違反として後々問題が発生する可能性があります。特に、以下の点で問題が生じることが多いです。

•   残業代の未払い問題

勤務時間外の練習が労働時間と認定された場合、その時間に対する残業代が発生することになります。美容室がこれを支払っていなかった場合、スタッフが後から残業代を請求することが可能です。過去に遡って請求できる期間は原則として2年間ですが、状況によっては5年分まで請求されることもあります。
• 長時間労働の問題
自主練習が事実上の労働とみなされ、勤務時間が実際よりも長くなる場合、法定労働時間の超過が発生します。労働基準法では、1日の労働時間は8時間、週の労働時間は40時間が限度とされています。これを超える労働が発生している場合、追加の残業代支払いや違法な長時間労働として罰則が科される可能性があります。
• 休日労働の未払い
練習やカリキュラムの進捗に合わせて、休日に練習を行わせていた場合、それが休日労働とみなされ、休日労働の割増賃金が発生します。これも支払われていない場合は、後から請求されるリスクがあります。

  1. 指導と強制の区別が曖昧になるリスク

美容室のオーナーや先輩スタイリストが、「スタイリストになるためには自主的に練習が必要」といった指導を行うことがあります。しかし、この指導が事実上の強制労働として受け取られることが多く、スタッフに対して精神的なプレッシャーを与える要因にもなり得ます。

•   指導と強制の曖昧さ

スタイリストになるために必要な技術力を向上させるための指導と、勤務時間外にそれを強制することの境界線が曖昧になる場合、スタッフからの不満が募り、ハラスメントや過重労働として訴えられるリスクがあります。
• プレッシャーによる健康問題
特に、3年以内にスタイリストデビューをしなければならないという厳しい目標が設定されている場合、スタッフが過剰にプレッシャーを感じ、メンタルヘルスの問題に発展する可能性があります。これも、労働環境が不当であるとして訴えられる可能性があります。

  1. 防止策としての対策

労基法違反や残業代請求を避けるためには、サロン経営者が労働時間の管理を適切に行い、スタッフが無理な負担を感じないような環境を整えることが必要です。以下の対策を講じることで、問題を未然に防ぐことができます。

•   勤務時間内に練習時間を確保する

スタイリストデビューを目指すアシスタントには、勤務時間内に練習時間を組み込むことが重要です。これにより、勤務時間外での練習が不要となり、残業代や長時間労働の問題を回避できます。
• 自主的な練習は完全に自主的に
自主的な練習が必要な場合は、スタッフに強制せず、完全に自主的な判断に委ねることが重要です。練習を行うかどうかは個人の自由であることを明確に伝え、勤務時間外の労働を強制しない方針を打ち出します。
• 残業代の適切な支払い
万が一、勤務時間外に練習が行われる場合でも、それが労働とみなされるならば、残業代を適切に支払うことが必要です。これにより、後からの残業代請求やトラブルを防ぐことができます。
• 労働時間の記録と管理
スタッフの労働時間や練習時間を正確に記録し、法定労働時間を超過していないかをチェックすることも重要です。これにより、労働時間が適切に管理され、違法な長時間労働を避けることができます。

まとめ

美容室で勤務時間外に自主練習を強制する形でスタイリストデビューを目指させることは、労働基準法に反する可能性が高く、後にスタッフから残業代を請求されるリスクがあります。労働時間外の練習を「自主的なもの」として扱うことが通例化していても、実際にはサロン側の指示や強制が伴っている場合、それは労働時間とみなされ、残業代の未払い問題が発生する可能性があります。

サロン経営者は、スタッフに無理な負担をかけないためにも、勤務時間内に練習時間を確保し、残業代を適切に支払うなどの対策を講じることが求められます。これにより、スタッフが健全な労働環境の中で成長し、トラブルを回避することができます。